「出生率が高い街」は子育て天国ではない——全国1,732市区町村を並べて分かった、沖縄と東京23区の落差

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人口出生率データの読み物

「子どもがたくさん生まれている街なら、子育てしやすいはず」——出生率の高い街を、そう受け取っていないでしょうか。この記事では、市区町村ごとの合計特殊出生率(厚生労働省「人口動態保健所・市区町村別統計」の推定値)を全国1,732市区町村で並べ、その高低が何を語り、何を語らないのかを読み解きます。第1弾からのデータの読み物と同じく、順位そのものより順位の意味を確かめる回です。

上位は沖縄と離島、下位は東京23区

まず全体像です。市区町村別の合計特殊出生率は、最低が0.83(埼玉県毛呂山町)、最高が2.25(鹿児島県徳之島町)。全市区町村の中央値は1.40でした。

上位を見ると、地理がはっきり出ます。出生率トップ20のうち、沖縄県が13・鹿児島県が6・熊本県が1。つまり上位はほぼ沖縄と奄美(南西諸島)で占められています。出生率が2.0以上ある11市町村も、沖縄8・鹿児島3と、すべてこの地域でした。

市区町村 合計特殊出生率
最高 鹿児島県徳之島町 2.25
鹿児島県天城町 2.24
沖縄県宜野座村 2.20
沖縄県宮古島市 2.06
東京都渋谷区 0.95
東京都豊島区 0.89
最低 埼玉県毛呂山町 0.83

逆に下位は、東京23区が目立ちます。豊島区0.89・中野区0.91・渋谷区0.95・杉並区0.95・世田谷区0.99——下位50市区町村のうち11が東京23区でした。県内の中央値で比べても、沖縄県は1.83、東京都は1.18と、大きな開きがあります。

「高い=子育てしやすい」ではない

ここが今回いちばんの勘どころです。出生率の高い沖縄は、子育てしやすい豊かな地域だから高い、のでしょうか。実はそう単純ではありません。沖縄は県民所得が全国で最も低い水準にありながら、出生率は全国で最も高い。つまり、高い出生率は「経済的な豊かさ」や「行政の手厚さ」の証明ではないのです。若い世代の人口構成、早めの結婚・出産、大家族や地域で子を育てる文化——複数の要因が重なった結果であって、「出生率が高い=子育て環境が良い」と読み替えることはできません。

逆に、東京23区の低さも「子育てしにくいから」だけでは説明できません。進学や就職で若い単身者が集まり、結婚・出産の時期が遅くなりやすいこと、住居費の高さ、共働きでのキャリア形成——こちらも複合的な事情が絡みます。出生率は、その街の「産みやすさ」や「暮らしやすさ」をそのまま測る物差しではない、ということです。

「率」と「実数」は違う

もう一つ、見落としやすい点があります。合計特殊出生率は「1人の女性が生涯に産む子どもの数」の目安であって、実際に生まれる子どもの数ではありません。

東京23区は出生率こそ全国最低クラスですが、人口が桁違いに多いので、生まれてくる子どもの実数はむしろ多い。反対に、出生率が2を超える離島は、率は高くても若い世代の人数自体が少ないため、実数は限られ、人口減少が続くところも少なくありません。率が高いこと子どもが増えることは、同じではないのです。

これは全国の数字にも表れています。市区町村の中央値は1.40ですが、参考までに、人口動態統計による全国の合計特殊出生率は2022年で1.26。中央値の方が高く見えるのは、出生率の高い小さな町村が数の上では多い一方、全国値は人口の多い都市部(出生率が低い)の重みで押し下げられるからです。どの単位で平均するかで、見える数字は変わります。

この数字が語らないもの

ここがいつもいちばん大事なところです。出生率は人口を考えるうえで欠かせない指標ですが、次のこととは別物です。

  • 小さな自治体の値は推定のブレを含みます。市区町村別の出生率は、単年だと出産数の標本が小さく不安定なため、5年ぶんをまとめたうえで統計的に補正した推定値です。それでも人口の少ない町村は幅が残るので、1位2位の小さな差を実態と読みすぎないこと。
  • 「産みやすさ」でも「暮らしやすさ」でもありません。高い・低いには、所得・年齢構成・文化・住居費など複数の背景があり、出生率だけで街の良し悪しは決められません。
  • 率と実数は別です。率が高くても子どもの実数が増えるとは限らず、人口減少と両立します。
  • 粗出生率とは違います。ここでの合計特殊出生率は、年齢構成の影響を除いた「1人あたり」の目安で、人口1,000人あたり何人生まれたかという粗出生率とは別の指標です。
  • 断面です。ここに載せたのは2018〜2022年の推定で、値は年ごとに変わります。

machiscopeで見る

同じデータを、次の形でそのまま確認できます。

まとめ

  • 市区町村別の合計特殊出生率は、最低0.83(埼玉県毛呂山町)〜最高2.25(鹿児島県徳之島町)、中央値1.40。上位は沖縄・奄美の離島がほぼ独占し、下位は東京23区が並ぶ。
  • ただし高い=子育てしやすい、ではない。沖縄は所得が全国で最も低い水準でも出生率は最高で、高低には所得・年齢構成・文化・住居費など複合的な背景がある。
  • 率と実数は別。出生率が最低クラスの東京23区でも子どもの実数は多く、率の高い離島でも人口は減りうる。中央値1.40が全国値1.26より高いのも、平均する単位の違い。
  • 市区町村の値は5年プールの推定値。小さな町村ほど幅が残るので、順位の小差を実態と読みすぎず、一つの目安として読む。

出典:厚生労働省「人口動態調査 人口動態統計特殊報告『人口動態保健所・市区町村別統計』」第2表(合計特殊出生率・市区町村別/5年プールのベイズ推定値・2018〜2022年)。全国値の参照は同「人口動態統計」(2022年)。市区町村別の集計・対比はmachiscopeによるもの。合計特殊出生率は年齢構成の影響を除いた「1人の女性が生涯に産む子ども数」の目安で、粗出生率とは異なります。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。