「移住で100万円」は町の奪い合いではない——全国1,092市町村の移住支援金を並べて分かった、手厚さの正体
「地方へ移住すると最大100万円」——そんな見出しを見ると、町どうしが金額で移住者を奪い合っているような印象を受けます。でも、全国の移住支援金を同じ土俵に並べてみると、実際はかなり違いました。この記事では、内閣官房・内閣府がまとめる「地方創生移住支援事業 実施都道府県・連携市町村一覧」(令和8年度)と、machiscopeが市ごとに一次確認した支給額をもとに、移住支援金の「手厚さ」の正体を読み解きます。第1弾からの治安・気温・待機児童・医師数・最低賃金編と同じく、数字が語ることと語らないことの両方を確かめます。
「100万円」は全国共通の設計——町ごとの競争ではない
まず、いちばん誤解されている点から。移住支援金の基本額は、単身60万円・世帯(2人以上)100万円です。これは国の地方創生移住支援事業が定める枠で、machiscopeが金額を一次確認できた1,084市町村のうち、およそ98%(1,063件)がこの基本額をそのまま採用していました。
つまり、「100万円」は町ごとに競って吊り上げた金額ではなく、全国でほぼ共通の上限です。A町が120万でB町が80万、といった価格競争が起きているわけではない。多くの町は「国が用意した枠を、そのまま使っている」というのが実態でした。
例外はごくわずかで、和歌山市(単身20万・世帯40万)や長野県茅野市(単身10万・世帯20万)のように、県庁所在地や中心市が独自に低めに設定している例が数えるほどあるだけです。
本当に手厚いのは福島の被災地——ただし文脈が違う
基本額がほぼ一律のなかで、はっきり突出しているのが福島県の原発被災地です。福島には「福島県12市町村移住支援金」という別枠があり、南相馬市・浪江町・富岡町など12の市町村では、単身120万円・世帯200万円(さらに18歳未満の子ども1人につき最大100万円加算)と、通常のほぼ倍の金額が用意されています。移住元も東京圏に限らず全国が対象です。
ただし、ここが数字だけを見ると読み違えるところです。この手厚さは「移住しやすい魅力的な町だから」ではなく、原発事故で避難を強いられた地域の復興策という文脈から来ています。金額の大きさは、それだけ帰還・移住のハードルが高い地域だ、という裏返しでもある。ランキングにすれば最上位に並びますが、machiscopeでは治安や気温などのランキングでもこの12市町村を平時の比較から外しています。「額が大きい=暮らしやすい」ではないからです。
差がつくのは「子育て加算」——一律100万ではない
では、町ごとに差が出るのはどこか。答えは18歳未満の子どもへの加算です。ここは基本額と違って、設計が大きく分かれます。
いちばん多いのは子ども1人につき100万円(国の上限)で、これが標準。次いで多いのが30万円で、明確な少数派として存在します。「加算は一律100万」という思い込みは誤りで、実際には次のように幅があります。
- 子ども1人あたり100万円:最も多く、全体のおよそ6割。
- 子ども1人あたり30万円:次に多く、およそ1割。岡山市・倉敷市、兵庫の一部、奄美の3町村などがこの型。
- 逓減型:北九州市は1人目100万・2人目50万・3人目30万と、人数が増えるほど1人あたりが下がる。
- 逓増型:大牟田市は逆に1人目100万・2人目150万・3人目以降180万と上がっていく。
- 人数や年齢の条件つき:群馬県桐生市などは加算3人まで(最大300万)、新潟県湯沢町は「夫婦の合計年齢85歳以下」といった要件が付く。
同じ国の制度を土台にしながら、加算だけは市の考え方で正反対の設計(下げる町と上げる町)が併存している——ここが、額の「手厚さ」に実際の差を生む部分でした。
そもそも「対象かどうか」が先——載っているのは42都道府県
金額の話の前に、じつはもっと手前に関門があります。そもそも自分の移住先が制度の対象か、です。
国の連携市町村一覧(令和8年度)に載っているのは、42都道府県・1,092市町村。全国1,741市区町村のうちおよそ6割にあたります。ただし人口ベースで見ると、カバーされるのは約47%にとどまります。件数の割に人口カバーが低いのは、移住支援金が地方の受け入れ側の制度で、対象が地方の中小自治体に偏っているから。人が多く移り住む先の都市部(=移住元となる東京・大阪などの大都市)は、そもそも受け取る側の一覧には入りにくいのです。
「移住支援金は全国どこでももらえる」わけではなく、まず対象市町村かどうかを確かめるのが最初の一歩、というのが数字の示すところでした。
この数字が語らないもの
ここがいつもいちばん大事なところです。移住支援金は「その町の手厚さ」の指標に見えますが、次のこととは別物です。
- 一覧に載っている=今すぐもらえる、ではありません。国の連携市町村一覧は「枠組みへの参加」を示すもので、県の運用では準備中・対象外・別建てのケースがあります(machiscopeでも数件を「要確認」として注記しています)。載っていても、実際に受け取れるかは各自治体の最新の要項で確認が要ります。
- もらえるのは要件を満たす人だけです。多くは「移住直前まで東京23区に在住/通勤していた」といった移住元の条件に加え、移住先での就業・起業・テレワーク継続などの要件があります。誰が移住しても一律に出るお金ではありません。
- 予算の範囲内です。年度の予算上限に達して受付を停止する自治体もあります(過去には申請が集中して途中で締め切った市もありました)。
- 一度きりの給付で、暮らしの豊かさとは別軸です。移住支援金は初期費用を後押しする一時金であって、家賃・物価・仕事の有無といった暮らしそのものの条件とは切り離して見るべきです。
- 毎年改定される断面です。ここに載せた枠組み・金額は令和8年度時点のもので、対象自治体も加算額も年ごとに変わります。
machiscopeで見る
同じデータを、次の形でそのまま確認できます。
- 移住支援金の県別一覧:42都道府県それぞれで、どの市町村が対象か・支給額が判明しているかを一覧できます。
- 福島県の移住支援金:被災12市町村の別枠(単身120万・世帯200万)を含む県内の状況。
- 地方移住におすすめの街:街の持続性・地価の手頃さ・転入超過・移住支援金の有無を合成して並べたテーマ特集。
- 各都道府県ページでは、移住支援金の対象状況も参考情報として掲載しています(例:福島県)。
まとめ
- 移住支援金の基本額(単身60万・世帯100万)は、金額が判明した1,084件のうち約98%で共通。「100万円」は町ごとの競争ではなく、全国共通の設計。
- 突出して手厚いのは福島の被災12市町村(単身120万・世帯200万)だが、これは移住のしやすさではなく原発被災地の復興という別の文脈。
- 町ごとに差がつくのは子育て加算。標準の100万(約6割)に対し30万(約1割)や逓減・逓増・条件つきなど設計は多様で、「一律100万」ではない。
- 金額の前に対象市町村かどうかが関門。載っているのは42都道府県・1,092市町村(人口カバー約47%)で、地方の受け入れ側の制度。
- 移住支援金は要件を満たす人への一時金であって、暮らしやすさそのものではない。対象・要件・予算・改定を踏まえ、一つの入り口として読む。
出典:内閣官房・内閣府 地方創生「地方創生移住支援事業 実施都道府県・連携市町村一覧」(令和8年度)、および各市町村公式の移住支援金ページ(machiscopeが市ごとに一次確認)。都道府県別の集計・支給額の分類はmachiscopeによるもの。制度の枠組みと実際の支給可否・要件は各自治体の最新の要項をご確認ください。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。