県境をまたぐと時給が変わる——全国の最低賃金を並べて読む、203円の差と「高い=暮らしやすい」ではない話

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家計最低賃金データの読み物

パートやアルバイトで働くとき、時給の下限を決めているのが最低賃金です。この記事では、厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)をもとに、全国47都道府県の最低賃金を同じ土俵に並べます。すると見えてくるのは、最高と最低で203円もの差があること、そして最低賃金は都道府県ごとに決まるため、同じ通勤圏でも県境をまたいだ途端に時給の下限が変わることでした。第1弾からの治安・気温・待機児童・医師数編と同じく、数字が語ることと語らないことの両方を確かめます。

全国は1,121円、最高と最低で203円・約1.2倍

まず全体像です。全国の加重平均は 1,121円(令和7年度)。都道府県別に並べると、上位と下位はこうなります。

都道府県 最低賃金(時間額)
最高 東京都 1,226円
神奈川県 1,225円
大阪府 1,177円
埼玉県 1,141円
千葉県・愛知県 1,140円
青森県 1,029円
鹿児島県 1,026円
最低 高知県・宮崎県・沖縄県 1,023円

最高の東京都(1,226円)と、最低の高知・宮崎・沖縄(1,023円)の差は 203円。時給にして2割ほど、フルタイム(1日8時間・月22日)に換算すると月およそ3.6万円、年にすると約43万円の開きになります。

もう一つ、地味ですが大事な点があります。全国の加重平均1,121円を上回るのは、わずか7都府県(東京・神奈川・大阪・埼玉・千葉・愛知・京都)だけ。残る40県は平均を下回ります。これは、人口が多く賃金も高い都市部が平均を引き上げているためで、「平均並み」の県はほとんど無い、というのが実態です。

県境をまたぐと、時給の下限が変わる

ここが今回いちばんの勘どころです。最低賃金は都道府県ごとに決まります(地域別最低賃金)。だから、生活圏や通勤圏が地続きでも、県境をまたいだ瞬間に下限が段差になる。隣り合う県の組み合わせで見ると、その段差はかなり大きくなります。

隣り合う県 最低賃金
東京都 ↔ 山梨県 1,226円 / 1,052円 174円
神奈川県 ↔ 山梨県 1,225円 / 1,052円 173円
大阪府 ↔ 和歌山県 1,177円 / 1,045円 132円
神奈川県 ↔ 静岡県 1,225円 / 1,097円 128円
大阪府 ↔ 奈良県 1,177円 / 1,051円 126円
兵庫県 ↔ 鳥取県 1,116円 / 1,030円 86円

たとえば東京都と山梨県。中央線沿いには山梨から東京へ通勤・通学する人が多くいますが、同じ路線でも、働く場所が東京か山梨かで最低賃金は174円変わります。フルタイムなら月におよそ3万円、年に約37万円の差です。仕事の内容が同じでも、県境という線一本で下限が変わる——これが地域別最低賃金の仕組みです。

近畿でも同じことが起きます。大阪府と和歌山県で132円、大阪府と奈良県で126円。大阪へ通う奈良・和歌山の人にとって、「どちら側で働くか」は時給の下限に直結します。

賃金が高い県ほど、仕事が見つけやすいわけではない

「賃金が高い=働き口も多い」と思いがちですが、データはむしろ逆の傾向を示します。仕事の見つけやすさの目安となる有効求人倍率(求職者1人あたり何件の求人があるか)を最低賃金と並べると、ゆるやかな逆相関(相関係数 −0.42)が出ます。

都道府県 有効求人倍率 最低賃金
倍率が高い 福井県 1.81 1,053円
富山県 1.66 1,062円
香川県 1.59 1,036円
倍率が低い 大阪府 1.01 1,177円
神奈川県 1.04 1,225円
東京都 1.09 1,226円

福井県は最低賃金こそ全国平均以下ですが、有効求人倍率は1.81倍と全国トップ。求職者1人に対して求人が1.8件ある計算です。逆に、賃金の高い大阪・神奈川・東京(1.01〜1.09倍)は求人が求職者数とほぼ拮抗しています。地方ほど人手不足で求人が多く、都市ほど働き手も多くて競争になりやすい——賃金の高さと、仕事の見つけやすさは、必ずしも同じ方向を向いていないのです。

この数字が語らないもの

ここがいつもいちばん大事なところです。最低賃金は地域の「稼ぎやすさ」の便利な要約に見えますが、次のものとは別物です。

  • これは「下限」であって、実際の時給ではありません。多くの求人は最低賃金より高い時給を提示します。最低賃金は「これを下回ってはいけない」という床であって、相場そのものではない。
  • 名目の高さは、手取りの豊かさとは違います。最低賃金の高い東京は、家賃や物価も高い。同じ1時間でも、実際に手元に残る余裕(実質)は名目の順位とは一致しません。
  • 毎年改定される断面です。ここに載せた額は令和7年度のもので、改定日も県ごとにバラバラ(2025年10月〜2026年3月にかけて順次)。最低賃金は近年ほぼ毎年引き上げられており、この差は年々変わります。
  • 有効求人倍率はハローワーク経由の数字です(民間の求人サイトは含みません)。職種の偏りもあり、「仕事の見つけやすさ」の全体像ではありません。
  • 県内は一律です。地域別最低賃金は都道府県単位で一つなので、同じ県のなかでは市による差はありません。だからこそ、差は県境にまとまって現れます。

machiscopeで見る

同じデータを、次の形でそのまま確認できます。

まとめ

  • 令和7年度の最低賃金は、最高の東京都(1,226円)と最低の高知・宮崎・沖縄(1,023円)で203円・約1.2倍の差。全国加重平均1,121円を上回るのは7都府県だけで、40県は下回る。
  • 最低賃金は都道府県ごとに決まるため、県境をまたぐと下限が段差になる。東京と山梨で174円、大阪と和歌山で132円。同じ通勤圏でも「どちら側で働くか」で時給の下限が変わる。
  • 賃金が高い県ほど仕事が見つけやすい、ではない。福井(1.81倍)など地方ほど有効求人倍率は高く、東京・大阪など高賃金の都市ほど低い(ゆるやかな逆相関)。
  • 最低賃金は下限であって実際の時給ではなく、物価差・改定・県内一律といった前提を踏まえて、一つの指標として読む。

出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)、および「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」長期時系列表18(都道府県・就業地別の有効求人倍率)。都道府県別の集計・隣接県の対比はmachiscopeによるもの。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。