「病院がある」と「医師がいる」は別——全国47都道府県で読む、人口10万人あたり医師数の1.8倍格差

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医療医師数データ読み物

住む街を選ぶとき、「近くに病院がある」ことは大きな安心材料です。でも、病院の“建物”があることと、そこに医師が足りていることは、実は別の話です。この記事では、厚生労働省の「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」をもとに、全国47都道府県の人口10万人あたりの医師数(医療施設で働く医師)を同じ土俵に並べます。すると見えてくるのは、最多と最少で約1.8倍の差があること、そして医師が手薄なのは地方ではなく大都市圏だという、直感とは逆の構図でした。第1弾の治安編・第2弾の気温編・第3弾の待機児童編と同じく、数字が語ることと語らないことの両方を確かめます。

全国は267.4人、最多と最少で約1.8倍

まず全体像です。全国の人口10万人あたり医師数は 267.4人(令和6年)。都道府県別に並べると、上位と下位はこうなります。

都道府県 人口10万対 医師数
最多 徳島県 345.4
長崎県 333.8
京都府 333.2
和歌山県 327.7
高知県 325.2
岩手県 223.8
新潟県 222.2
千葉県 213.3
茨城県 198.1
最少 埼玉県 189.1

最多の徳島県(345.4人)と最少の埼玉県(189.1人)の差は約1.8倍。同じ「人口10万人」に対して、医師の数が2倍近く違うということです。全国平均を上回るのは27県、下回るのは20県でした。

「近くに病院がある/ない」は地図を見ればわかりますが、その病院にどれだけ医師がいるかは、こうして数字にしないと見えてきません。

医師が手薄なのは、地方ではなく「首都圏」だった

ここが今回いちばん意外なところです。医師が少ない側の顔ぶれを見ると、上位に来るのは過疎地ではなく、東京を囲む首都圏でした。

都道府県 人口10万対 医師数 少ない順の順位
埼玉県 189.1 47位(最少)
茨城県 198.1 46位
千葉県 213.3 45位
神奈川県 233.3 41位
(参考)東京都 324.1 6位(最多クラス)

埼玉・茨城・千葉・神奈川が軒並み下位を占める一方、その真ん中にある東京都だけが全国6位の“医師が多い県”。つまり、人口が集中し、大きな病院もたくさんあるはずの首都圏で、人口あたりの医師は全国でいちばん手薄なのです。

この一因は、統計の数え方にあります。この数字は「主たる従業地(勤務先の都道府県)」ベースです。埼玉や千葉に住んでいても、都心の病院に通勤して働く医師は東京にカウントされます。ベッドタウンの人口は膨らむのに、医師は勤務地の東京に集まる——だから周辺県の「人口あたり」が下がって見えるわけです。

同じことは、全国平均そのものにも表れています。47都道府県の値を単純に平均すると 273.6人ですが、人口で重みづけした全国値は 267.4人とそれより低い。人口の多い埼玉・千葉・神奈川がそろって医師の少ない側にいるため、全国を「人数ベース」で見ると平均が押し下げられるのです。多くの人が、医師が手薄な地域に住んでいる——数字はそう語っています。

西ほど多く、東ほど少ない——「西高東低」

もう一つ、はっきりしたパターンがあります。西日本ほど医師が多く、東日本ほど少ない。ざっくり近畿以西の24県と、それ以外の23都道県で平均すると——

地域 人口10万対 医師数(県平均)
西日本(近畿〜九州・沖縄の24県) 298.8
東日本(中部以東の23都道県) 247.2

医師が多い上位10県のうち9県が西日本(徳島・長崎・京都・和歌山・高知・岡山・鳥取・福岡・島根)。東日本で唯一そこに食い込むのが東京都です。逆に少ない下位10県は、首都圏(埼玉・茨城・千葉・神奈川)に加えて、青森・岩手・新潟・福島・岐阜・静岡と、東日本に偏っています

背景には、大学医学部の歴史的な配置や、四国・中国・九州に医師養成の拠点が厚いことなどが指摘されますが、少なくとも「地方=医師が足りない、都会=充実」という単純な図式では説明できないことは、この並びからはっきり読み取れます。

この数字が語らないもの

ここがいつもいちばん大事なところです。人口10万対医師数は「医療の手厚さ」の便利な要約に見えますが、次のものとは別物です。

  • 住んでいる場所ではなく、働いている場所の数字:前述のとおり勤務地ベースなので、通勤で医師が流入する県は高く、流出する県は低く出ます。「自分の街で診てもらえるか」とは必ずしも一致しません。
  • 診療科の偏りは映らない:総数が多くても、産科・小児科・救急・麻酔科などが足りない地域は珍しくありません。「お産のできる病院が近くにない」「夜間に子どもを診てもらえない」といった困りごとは、総数の多寡とは別の問題です。
  • 県内の格差も映らない:県の平均が高くても、その多くは県庁所在地や大学病院のある都市に集まりがちです。同じ県でも、郡部や離島では事情が大きく異なります。県単位の一つの数字は、県内が均一であることを意味しません。
  • 「すぐ診てもらえるか」とは違う:医師の数は、待ち時間・診療時間・通院距離・オンライン診療の有無といった、実際の“かかりやすさ”そのものではありません。
  • 病院や病床の数とも別:施設がいくつあるか(病院数・病床数)と、医師が何人いるかは、別々の指標です。

だから、「医師が多い県=安心、少ない県=不安」と単純には読めません。この数字が語れるのは「その都道府県で、人口あたり何人の医師が働いているか」というところまでです。

machiscopeで見る

同じデータを、次の形でそのまま確認できます。

  • 医師数ランキング(都道府県):全国47都道府県を人口10万対の医師数で一覧。
  • 全国マップ:医師数を含む各指標を、実際の県境で塗り分けて比較できます(西高東低が地図でひと目で見えます)。
  • 各都道府県ページでは、医師数を県の参考値として掲載しています(例:埼玉県徳島県京都府)。
  • 老後の暮らしの特集:医療だけでなく、介護・物価・人口動態などを合わせて見るための面です。医療は“数ある指標の一つ”として複数の視点で。

まとめ

  • 全国の人口10万対医師数は 267.4人。最多の徳島県(345.4人)と最少の埼玉県(189.1人)で約1.8倍の差。
  • 医師が手薄なのは地方ではなく、首都圏(埼玉47位・茨城46位・千葉45位・神奈川41位)。真ん中の東京だけが全国6位。勤務地ベースの数え方が一因で、人口の多い県が医師の少ない側にそろうため、全国を人数で見ると平均が下がる。
  • 西高東低。西日本24県の平均298.8に対し東日本23都道県は247.2で、医師の多い上位10県のうち9県が西日本。
  • ただしこの数字は、診療科の偏り・県内格差・勤務地ベースの偏り・実際のかかりやすさは語らない。「医師が多い=安心」と単純に読まず、一つの指標として使う。

出典:厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」統計表10(人口10万対 医療施設従事医師数・主たる従業地別)。都道府県別の集計・地域区分はmachiscopeによるもの。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。