全国の47%の市区町村に産科がない——でも「日本の47%に産科がない」ではない、という話
「近くにお産ができる場所があるか」は、子育て世代が街を選ぶときの現実的な条件です。この記事では、市区町村別の産科・産婦人科を掲げる医療機関の数(国土数値情報の医療機関データ・2020年)を全国で並べ、「産科がない」が何を意味するのかを読み解きます。第1弾からのデータの読み物と同じく、順位そのものより、数字が何を語り、何を語らないかを確かめる回です。
1,741のうち819、全国の47.0%に産科がない
まず数から。全国1,741市区町村のうち、産科・産婦人科を掲げる医療機関が1つもないのは819市区町村。割合にして47.0%にあたります。半分近い自治体に、産科の看板を出している医療機関が存在しません。
同じ数え方で、他の科も並べるとこうなります。
| 市区町村内に1つもない | 該当数 | 割合 |
|---|---|---|
| 産科・産婦人科 | 819 | 47.0% |
| 病院(診療所を除く) | 441 | 25.3% |
| 救急告示の医療機関 | 685 | 39.3% |
| 小児科 | 149 | 8.6% |
小児科が0なのは8.6%にとどまるのに対し、産科は47.0%。医療の中でも産科は、際立って「無い街」が多い分野だとわかります。
でも、そこに住むのは全国の7.7%
ここからが本題です。「全国の47%に産科がない」は、「日本人の47%が産科のない街に住んでいる」という意味ではありません。
産科0の819市区町村に住む人を合計すると、972万人。全国1億2,615万人の7.7%にあたります。15歳未満の子どもで数えても、産科0の街に住むのは109万人=全国の7.3%にとどまります。
数字が2つに割れるのは、市区町村という単位が人口を均等に分けていないからです。1,741の自治体には、人口377万人の横浜市も、人口1,000人台の村も、同じ「1」として並びます。産科がないのは主に人口の少ない自治体なので、自治体を数えると半分、人を数えると1割弱という差が生まれます。
どちらの数字も正しい。ただし答えたい問いが違います。「地図の上でどれだけの範囲に産科がないか」を知りたいなら47.0%、「どれだけの人が産科のない街に住んでいるか」なら7.7%です。ランキングや割合を見るときは、何を1つと数えているのかを確かめる必要があります。
決めているのは、ほぼ人口規模
では、産科の有無は何で決まるのか。人口規模で区切ると、驚くほどきれいに並びます。
| 人口規模 | 自治体数 | 産科0 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 10万人以上 | 283 | 0 | 0.0% |
| 5万〜10万人 | 242 | 14 | 5.8% |
| 3万〜5万人 | 239 | 58 | 24.3% |
| 1万〜3万人 | 446 | 261 | 58.5% |
| 5千〜1万人 | 240 | 209 | 87.1% |
| 5千人未満 | 291 | 277 | 95.2% |
人口10万人以上の283市区町村は、1つの例外もなく産科があります。逆に人口5千人未満では95.2%の自治体に産科がありません。産科があるかどうかは、その街の熱心さや医療への姿勢というより、そこに何人住んでいるかでほぼ決まっています。
お産には24時間の当直体制が要り、医師1人では回りません。一定の分娩数がなければ体制を維持できない——産科が人口規模に強く縛られるのは、この構造によるものです。
「1つだけ」も330市区町村ある
もう一つ、0と1の間にも注意が要ります。産科がある922市区町村のうち、施設が1つしかないのは330市区町村。産科のある自治体の35.8%にあたります。
産科0(819)と産科1(330)を足すと1,149=全国の66.0%。 3分の2の市区町村では、産科は「無い」か「1つだけ」のどちらかです。1つしかなければ、その施設が休診や閉院になった時点で、その街の産科はゼロになります。
一方、多いところは桁が違います。横浜市146・大阪市132・名古屋市103——産科もまた、大都市に集まっています。
県によっても大きく違う
県ごとに、域内の市区町村のうち何%が産科0かを見ると、こうなります。
| 都道府県 | 産科0の割合 | |
|---|---|---|
| 高い | 鳥取県 78.9% / 北海道 74.9% / 高知県 73.5% / 福島県 69.5% | |
| 低い | 大阪府 18.6% / 石川県 15.8% / 東京都 12.9% |
最も高い鳥取県は19市町村中15が産科0。最も低い東京都は62市区町村中8にとどまります。ただしこれも、その県に小さな自治体がどれだけあるかを映している面が大きい点は割り引いて読む必要があります。北海道の74.9%は「北海道の医療が薄い」というより、人口数千人の町村を179も抱える自治体構成の反映でもあります。
この数字が語らないもの
ここがいつもいちばん大事なところです。産科の有無は街を知る手がかりですが、次のこととは別物です。
- 看板であって、お産ができるとは限りません。ここで数えたのは産科・産婦人科を掲げている医療機関です。婦人科の診療だけで分娩を扱わない施設も含まれるため、実際にお産ができる場所はこれより少なくなります。
- 市の境は、医療の境ではありません。産科0の街の人が産めないわけではなく、多くは隣の市の病院に通います。ここで数えているのは行政区域の中に施設があるかどうかだけです。
- 数であって、体制ではありません。産科1つの街と10ある街では意味が違い、同じ「1」でも分娩数や当直体制、ハイリスク妊娠への対応力は施設ごとに大きく異なります。
- 2020年の断面です。産科は全国的に減少が続いており、この時点の状況を表します。
- 0は未登録ではなく実態です。今回、全国11万件超の施設の記載を照合し、記載漏れによる0でないことを確認したうえで数えています。それでも上の4点の意味で、0を「産めない」とそのまま読むことはできません。
machiscopeで見る
同じデータを、次の形でそのまま確認できます。
- 病床が多い街ランキング:人口あたりの病床数で全国の市区町村を並べた一覧。
- 医師が多い都道府県ランキング:人口10万人あたり医師数(第4弾で扱った指標)。
- 子育て世帯におすすめの街:医療を含む複数の指標を合成したテーマ特集。
- 各市区町村のカルテには、産科・小児科を含む診療科の数を掲載しています(例:産科が全国最多の神奈川県横浜市・産科も小児科も無い自治体で人口が最も多い山形県庄内町・産科0の割合が全国で最も高い鳥取県)。
まとめ
- 産科・産婦人科を掲げる医療機関が1つもない市区町村は819=全国の47.0%。病院0は25.3%、小児科0は8.6%で、産科は際立って「無い街」が多い。
- ただしそこに住むのは全国の7.7%(15歳未満では7.3%)。自治体を数えるか人を数えるかで、47%と7.7%に割れる。どちらも正しく、答えたい問いが違う。
- 有無をほぼ決めているのは人口規模。10万人以上は283市区町村すべてに産科があり、5千人未満は95.2%に無い。
- 産科0と産科1つだけを合わせると66.0%。1つしかない街では、その施設が閉じればゼロになる。
- 掲げているだけでお産ができるとは限らず、市境は医療圏の境でもない。一つの目安として、中身を踏まえて読む。
出典:国土数値情報「医療機関データ P04」「行政区域データ N03」(国土交通省・2020年)より、市区町村別に診療科目の記載を集計(machiscope)。人口は総務省「令和2年国勢調査」(e-Stat 社会・人口統計体系)。診療科目は各医療機関の標榜に基づくもので、分娩の取り扱いや診療体制を示すものではありません。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。