「公示地価」は、その街で売買されている土地の値段ではない——実取引と並べると4割の街で2割以上ずれる

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相場地価データの読み物

「地価が上がった・下がった」というニュースの数字は、ほとんどが公示地価です。第9弾ではその公示地価を全国で並べました。今回はその続きで、公示地価と、実際に売買された価格を並べたらどれだけ違うのかを確かめます。使うのは国土交通省の地価公示(令和8年)と、同じく国土交通省の不動産取引価格情報(2025年・成約ベース)です。第1弾からのデータの読み物と同じく、順位そのものより、数字が何を語り、何を語らないかを確かめる回です。

公示地価は、1市区町村あたり中央値3地点で決まっている

まず、公示地価がどうやって作られているかを押さえます。公示地価は、国が選んだ標準地を不動産鑑定士が評価した価格です。全国どこでも測っているわけではありません。

住宅地の標準地は、全国で18,615地点。1,737市区町村に割り当てられているので、1自治体あたりの中央値はわずか3地点です。しかも、

  • 標準地が3地点以下の自治体が895=全体の51.5%
  • 1地点以下の自治体も79

つまり半分の市区町村では、市全体の「地価」が3つ以下の点で代表されています。これは公示地価の欠陥ではなく設計です。標準地は「その地域の標準的な土地」として選ばれ、価格の目安を全国で揃えることが目的だからです。ただし、その3点があなたの気になる場所を代表しているとは限らないことは知っておく必要があります。

一方、実際の取引はもっと数があります。同じ「宅地(土地)」で成約した取引は、1,542市区町村で合計58,923件。公示の標準地の3倍以上です。

並べると、4割の街で2割以上ずれる

では両者を比べます。実取引が30件以上あり、公示の標準地も5地点以上ある432市区町村に絞って、「実取引の㎡単価中央値 ÷ 公示地価」を計算しました。

比率 該当数 割合
0.5倍未満(実取引が大幅に安い) 39 9.0%
0.5〜0.8倍 103 23.8%
0.8〜1.2倍(おおむね一致) 244 56.5%
1.2倍超(実取引が高い) 46 10.6%

全体の中央値は0.913倍。実取引のほうがやや安いことが多く、62.5%の自治体で実取引が公示を下回りました

そして重要なのはここです。±20%以内に収まるのは56.5%。裏を返せば、4割強の市区町村では、公示地価と実際の取引価格が2割以上ずれています。「公示地価がこれくらいだから、この街の土地はこれくらい」という読み方は、半分近い自治体で外れます。

ずれ方は、街の大きさで向きが変わる

ずれ方はランダムではありません。人口規模で区切ると、はっきりした傾向が出ます。

人口規模 自治体数 実取引÷公示の中央値
30万人以上 86 1.041
10万〜30万人 181 0.914
5万〜10万人 133 0.838
3万〜5万人 31 0.757

大都市では実取引が公示を上回り、街が小さくなるほど実取引が公示を下回ります。

理由は、両者が見ている土地が違うからです。公示の標準地は、その市の市街地の住宅地に置かれます。ところが実際に売買される「宅地」には、市街地から離れた土地や、宅地として登記されていても住宅地とは言いにくい土地も多く含まれます。市域が広く郊外を多く抱える自治体ほど、取引の中央値は市街地の標準地より下に引っ張られます

具体例を挙げると、埼玉県東松山市は実取引の中央値が7,350円/㎡(136件)に対し、公示地価は57,000円/㎡(15地点)。逆に東京都江東区は実取引965,000円/㎡(66件)に対し公示579,000円/㎡(19地点)で、実取引のほうが高く出ます。千葉県木更津市も実取引62,500円/㎡(88件)対公示40,600円/㎡(38地点)でした。

しかも、実取引の中央値は年ごとに振れる

では実取引のほうが正しいのかというと、そう単純でもありません。取引の中央値は、その年に何が売れたかで動きます。

当年・前年とも20件以上の取引がある657市区町村で前年比を見ると、±20%以内に収まったのは434=66.1%。残る3分の1は2割以上動いています。極端な例では前年比−50%以下が19自治体、+50%以上が36自治体。1年で地価が半分になる市場はありませんから、これは売れた土地の構成が変わっただけです。

広い郊外の土地がたまたま多く売れた年は中央値が下がり、駅前の小さな区画が多く売れた年は上がる。中央値は「価格の動き」ではなく「売れたものの構成」も一緒に映してしまいます。machiscopeのランキングで成約価格の前年比を扱うときに、両年30件以上に限り、±40%を超える変化を構成ノイズとして除外しているのはこのためです。

この数字が語らないもの

ここがいつもいちばん大事なところです。公示地価も実取引も土地を知る手がかりですが、次のこととは別物です。

  • どちらも「あなたの土地の値段」ではありません。公示は選ばれた標準地の鑑定評価、実取引は市区町村単位の中央値です。個別の土地は、駅からの距離・形・接道・用途地域で大きく変わります。
  • 時点が違います。公示地価は毎年1月1日時点の評価、実取引はここでは2025年の成約分です。同じ瞬間を比べているわけではありません。
  • 対象の土地が違います。公示は住宅地の標準地、実取引は「宅地(土地)」として成約したもの全般。この記事のずれの多くは、この母集団の違いから来ています。
  • 件数が少ないと不安定です。この記事の比較は実取引30件以上・公示5地点以上に絞っていますが、それでも中央値は構成に振られます。件数の少ない自治体の数字は目安として扱う必要があります。
  • 上下の極端な例は取り上げていません。比率が0.1倍を下回る自治体も存在しますが、少数の特殊な取引で説明がつく可能性が高いため、分布と傾向で読むようにしています。

machiscopeで見る

同じデータを、次の形でそのまま確認できます。

まとめ

  • 公示地価は全国18,615地点の標準地を鑑定した値で、1市区町村あたり中央値3地点51.5%の自治体は3地点以下で市全体を代表している。
  • 実取引の中央値と並べると、±20%以内に収まるのは56.5%4割強の街では2割以上ずれる。全体の中央値は0.913倍で、62.5%の自治体は実取引のほうが安い。
  • ずれの向きは街の規模で変わる。大都市は実取引が上、小さい街ほど下。公示の標準地が市街地に置かれる一方、取引には郊外の土地が多く混ざるため。
  • 実取引の中央値も年ごとに振れる(前年比±20%以内は66.1%)。売れた土地の構成が変われば中央値は動く。
  • どちらも「あなたの土地の値段」ではない。一つの目安として、中身を踏まえて読む。

出典:国土数値情報「地価公示データ L01(令和8年)」(国土交通省)の住宅地標準地、および国土交通省「不動産情報ライブラリ 不動産取引価格情報」(2025年・宅地(土地)の成約㎡単価中央値)。人口は総務省「令和2年国勢調査」(e-Stat 社会・人口統計体系)。公示地価は毎年1月1日時点の鑑定評価、実取引は成約ベースで、評価時点も対象の土地も異なります。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。