夏に本当に涼しい街はどこか——8月の平年気温を全国1,741市区町村で並べる
連日の猛暑の中で「夏が涼しい街に住みたい」と考えたことはないでしょうか。この記事では、気象庁の平年値(1991〜2020年)を使って、全国1,741市区町村の8月の平均気温を同じ土俵に並べてみます。最も涼しい街と最も暑い街の差は 12.1℃——同じ日本の8月とは思えない開きがあります。第1弾の治安編と同じく、数字が語ることと語らないことの両方を確かめるのが目的です。
値は各市区町村の最寄りの気象観測地点の平年値を割り当てたものです(この方法の限界は後述します)。
全国の8月は「平均25.5℃・中央値26.4℃」、最少と最多で12.1℃の差
1,741市区町村の8月平年気温は、平均 25.5℃、中央値 26.4℃。両端はこうなっています。
| 涼しい(8月平年気温) | ℃ | 暑い(8月平年気温) | ℃ | |
|---|---|---|---|---|
| 北海道浜中町 | 17.3 | 沖縄県石垣市 | 29.4 | |
| 北海道根室市 | 17.4 | 沖縄県糸満市 | 29.3 | |
| 北海道厚岸町 | 17.7 | 沖縄県北大東村 | 29.2 | |
| 北海道えりも町 | 17.7 | 沖縄県多良間村 | 29.1 | |
| 北海道白糠町 | 17.8 | 大阪府八尾市など大阪・奈良の11市町 | 29.1 |
涼しい側の上位20はすべて北海道、それも釧路・根室を中心とする道東の沿岸部です。夏に寒流(親潮)の上を渡ってくる冷たく湿った空気の影響で、釧路市の8月は 18.2℃。7月にいたっては16.1℃と、東京の4月下旬〜5月並みの涼しさです。
ちなみに東京(千代田区)は 26.9℃ で、涼しい順に並べると1,741のうち1,079番目。「東京の夏は特別暑い」印象がありますが、月平均で見ると全国の中央値より少し高い程度の位置にいます。全国の 58%(1,011市区町村)が26℃以上で、日本の8月の「ふつう」がすでにかなり暑いことがわかります。
「大阪の8月は那覇と同じ」——29℃クラブの顔ぶれ
8月の平年気温が29℃以上の市区町村は全国に 29 あります。内訳は沖縄県15・大阪府11・奈良県3。つまり29℃クラブのほぼ半分は、南の島ではなく大阪平野です。
- 大阪市の8月は 29.0℃——那覇市とちょうど同じ値です。
- 八尾・松原・藤井寺・羽曳野など大阪府東部〜奈良盆地西部の11市町は 29.1℃ で、那覇を上回ります。
- 名古屋市28.2℃、福岡市28.4℃、京都市28.5℃と、西日本の大都市はいずれも28℃台。
沖縄は周囲を海に囲まれているため、気温の上限が海水温に抑えられます。一方、大阪平野は都市化の蓄熱と内陸的な地形で夜も気温が下がりにくい。「南ほど暑い」は月平均では成り立たず、暑さの主役は緯度ではなく都市と地形です。季節の形も違い、那覇のピークは7月(29.1℃)で8月はわずかに下がるのに対し、大阪は7月27.7℃→8月29.0℃と8月が明確な頂点になります。
本土の涼しさは「標高」で決まる——軽井沢は札幌より涼しい
北海道を除くと、涼しい街の顔ぶれは一変して高原になります。
| 本土の涼しい街(8月平年気温) | ℃ | 主な観測地点 |
|---|---|---|
| 長野県南牧村・川上村など野辺山周辺5町村 | 19.5 | 野辺山(標高約1,350m) |
| 群馬県嬬恋村・草津町・長野原町 | 19.6 | 田代・草津 |
| 福島県檜枝岐村 | 20.3 | 桧枝岐 |
| 福島県北塩原村(裏磐梯) | 20.6 | 桧原 |
| 長野県軽井沢町・御代田町 | 20.8 | 軽井沢(標高約1,000m) |
軽井沢の8月は 20.8℃。これは札幌(22.3℃)より1.5℃低い値です。気温はおおむね標高100mにつき0.6℃下がるため、標高1,000m級の高原は「緯度を800km北上した」のと同じ効果を持ちます。避暑地の定番が明治以来ずっと高原にあるのは、データで見ても合理的でした。
この数字が表さないもの
ここが今回いちばん大事なところです。月平均気温は、昼と夜・晴れと雨をすべてならした値であり、次のものとは別物です。
- 猛暑日や最高気温の激しさ:「日本一暑い街」として知られる熊谷市の8月平均は 27.1℃、多治見市は 27.7℃——どちらも大阪市(29.0℃)より低いのです。内陸の盆地は日中に極端な高温を記録しやすい一方、夜は海沿いの都市より気温が下がるため、平均するとむしろ低くなります。日中の危険な暑さを知りたいなら、平均気温ではなく猛暑日日数や最高気温を見るべきです。逆に沖縄は35℃を超える日はまれですが、昼も夜も高止まりするため平均では全国最高になります。
- いまの夏の実感:平年値は1991〜2020年の30年平均で、2021年以降の記録的な猛暑は含まれていません。近年の夏は平年値を上回ることが多く、絶対値は現在の実感より控えめに出ます。「どこが相対的に涼しいか」の比較には有効ですが、「軽井沢なら20.8℃で過ごせる」という保証ではありません。
- 市内の場所ごとの違い:値は最寄り観測地点(距離の中央値6.6km)の平年値を市区町村に割り当てたものです。同じ観測点を共有する近隣市町は同じ値になり(八尾の観測値を11市町が共有しています)、山がちな自治体では観測点と市街地の標高差のぶん実態とずれることがあります。観測点が20km以上離れている自治体も17あります。
涼しさの代償——冬を見てから決める
「夏18℃」の裏面は冬にあります。移住先として考えるなら、同じデータの1月を見るのが公平です。
| 8月 | 1月 | 年最深積雪 | |
|---|---|---|---|
| 北海道釧路市 | 18.2℃ | −4.8℃ | 34cm |
| 長野県軽井沢町 | 20.8℃ | −3.3℃ | 35cm |
| 群馬県草津町 | 19.6℃ | −4.1℃ | 99cm |
| 東京都千代田区 | 26.9℃ | 5.4℃ | 6cm |
夏が涼しい街は、冬は氷点下5℃前後まで下がり、場所によっては1m近い積雪と付き合うことになります。裏磐梯の北塩原村は年間日照が1,256時間と、東京(1,927時間)の3分の2しかありません。「夏の涼しさ」単独ではなく、1年分の気候をセットで見るのが、この種のデータの正しい使い方です。
machiscopeで見る
同じデータを、次の形でそのまま確認できます。
- 年平均気温ランキング:全国の市区町村を年平均気温で一覧(暖かい順・涼しい街は下位から)。
- 各市区町村の住まい判断カルテでは、「安全・環境」の見出しに月別の気温・降水・日照・積雪を観測地点名つきで表示しています(例:釧路市・軽井沢町)。
まとめ
- 8月の平年気温は全国平均25.5℃。最も涼しい北海道浜中町(17.3℃)と最も高い石垣市(29.4℃)で12.1℃の差。
- 涼しい上位は道東沿岸(寒流)と高原(標高)の2系統。軽井沢(20.8℃)は札幌(22.3℃)より涼しい。
- 29℃以上の29市区町村の半分は沖縄ではなく大阪平野。大阪市の8月は那覇市と同じ29.0℃。
- 月平均気温は猛暑日の激しさとは別物(熊谷27.1℃<大阪29.0℃)。平年値は1991〜2020年の平均で、近年の猛暑は含まれない。
- 夏の涼しさには冬の寒さ・雪・日照という代償がある。1年分をセットで見る。
出典:気象庁「アメダス(地域気象観測)平年値(1991〜2020年)」。各市区町村への最寄り観測地点の割り当て・集計はmachiscopeによるもの。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。