都道府県の「治安」を数字で読む——なぜ最少と最多で3倍以上の差がつくのか(2024年)
「治安のいい街に住みたい」——住まい選びで多くの人が口にする条件です。ですが「治安」は、家賃や面積のように一つの数字で測れるものではありません。この記事では、公的統計で唯一これに近い全国共通の指標である刑法犯認知件数を、都道府県別に人口10万人当たりへ揃えて眺めてみます。数字が語ることと、語らないことの両方を確かめるのが目的です。
出典は警察庁「令和6年の刑法犯に関する統計資料」。件数そのものは人口の多い都市ほど大きくなるので、人口10万人当たりに正規化して比べます。
全国平均は595.9件、最少と最多で3.24倍
2024年(令和6年)の全国平均は、人口10万人当たり 595.9件。都道府県別に並べると、少ない順・多い順の上位5はこうなります。
| 少ない(人口10万人当たり) | 件 | 多い(人口10万人当たり) | 件 | |
|---|---|---|---|---|
| 1. 秋田県 | 287.2 | 1. 大阪府 | 929.6 | |
| 2. 岩手県 | 289.9 | 2. 群馬県 | 772.1 | |
| 3. 山形県 | 301.9 | 3. 茨城県 | 751.7 | |
| 4. 大分県 | 317.2 | 4. 福岡県 | 727.6 | |
| 5. 長崎県 | 320.2 | 5. 兵庫県 | 708.6 |
最少の秋田(287.2)と最多の大阪(929.6)では 3.24倍の開き。全国平均を上回るのは47のうち 14都府県だけで、残り33県は平均以下です。つまり分布は「一部の都市部が全体平均を押し上げている」形をしています。
なぜ差がつくのか——密度・繁華街・昼間人口
この差は「県民性」ではなく、主に環境要因で説明できます。
- 人口密度と繁華街:人と店が集まる場所ほど、窃盗(自転車盗・万引き)や器物損壊といった件数の多い犯罪の機会が増えます。刑法犯の多くはこうした街頭・生活型の犯罪です。
- 昼間人口:通勤・通学・買い物で人が流入する都市は、「住んでいる人の数(分母)」より実際にその街で活動する人が多く、人口当たりの件数が高く出やすくなります。
- 通報・認知のされやすさ:都市部ほど被害が警察に把握されやすい面もあります(後述)。
大阪や福岡のような都市圏が上位に来るのはこのためで、その地域が危険だという単純な意味ではありません。
「認知件数」という言葉が表さないもの
ここが最も大事なところです。この指標は 「認知件数」=警察が把握した件数であり、次のものとは別物です。
- 体感治安:あなたが街で感じる安心・不安。
- 実際の被害総数:通報されなかった被害は数字に入りません(=暗数)。通報率が高い地域ほど、統計上の件数はむしろ「増えて」見えます。
- 重大犯罪のリスク:刑法犯の総数は窃盗など件数の多い犯罪に大きく左右され、凶悪犯罪の起きやすさをそのまま示すわけではありません。
参考になるのが検挙率(認知した事件のうち解決した割合)です。2024年は最少の秋田で 58.3%、最多の大阪で 26.2% と、こちらも地域差が大きい。件数だけでなく「解決のされやすさ」も土地によって違うことがわかります。
だからこの数字は、街を序列づけて「安全・危険」とラベルを貼るためのものではありません。同じ土俵で相対的な傾向をつかむための、参考値の一つとして読むのが正しい使い方です。
2024年はほぼ全国で増加した
もう一つの事実。前年(2023年)と比べると、47のうち44都道府県で人口当たりの認知件数が増加しました(減少は3県のみ)。これはコロナ禍で落ち込んだ人流が戻り、街頭犯罪の機会が回復したことが背景にあると考えられます。特定の地域が悪化したというより、全国的な揺り戻しとして見るのが自然です。
自分の関係する街はどう見ればいい
治安は「県の平均値」だけで決まるものではなく、同じ市内でも駅前と住宅地では大きく違います。県単位の参考値は出発点として使い、最終的には自治体・警察が公開する町丁目単位の犯罪マップや、現地の様子で確かめるのが確実です。
その出発点として、machiscopeでは同じデータを次の形で見られるようにしています。
- 治安がいい都道府県ランキング:47都道府県を人口10万人当たりで一覧。検挙率・前年比も併記。
- 全国データマップ:指標を地図上の色分けで俯瞰。
- 各市区町村の住まい判断カルテでは、この県の参考値を「安全・環境」の見出しにまとめ、注記付きで表示しています。
まとめ
- 2024年の刑法犯認知件数は全国平均595.9件(人口10万人当たり)。最少の秋田と最多の大阪で3.24倍。
- 差の主因は密度・繁華街・昼間人口といった環境要因で、「県民性」ではない。
- 認知件数は体感治安や実被害とは別物。通報率や暗数に左右されるため、序列ではなく相対的な傾向をつかむ参考値として読む。
- 2024年はほぼ全国で増加(44/47県)。人流回復の揺り戻しと見られる。
出典:警察庁「令和6年の刑法犯に関する統計資料」(生活安全局)。人口10万人当たりへの換算・前年比・検挙率の整理はmachiscopeによるもの。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。