「店が多い街」は買い物しやすい街とは限らない——商業事業所の密度トップは、住宅街ではなく問屋街だった

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生活買い物データの読み物

引っ越し先を選ぶとき、「店が多くて買い物に便利そう」を目安にすることがあります。でも、店の多さを表す数字には、住む人の買い物のしやすさとは違うものが混ざっています。この記事では、市区町村別の商業事業所の密度(卸売業+小売業の事業所数÷人口1万人・2021年)を全国で並べ、「店が多い」が何を意味するのかを読み解きます。第1弾からのデータの読み物と同じく、順位そのものより、順位の意味を確かめる回です。

密度トップは千代田区、でも正体は問屋街

まず全体像です。人口1万人あたりの商業事業所数は、全国の市区町村の中央値で91.4件。密度の高い自治体から、特徴がわかる例を抜き出すと、こうなります(高い順・抜粋)。

市区町村 事業所密度(1万人あたり) 人口
東京都千代田区 860.2件 約6.7万人
奈良県天川村 518.7件 約1,200人
東京都中央区 389.2件 約16.9万人
和歌山県高野町 336.7件 約3,000人
東京都台東区 259.0件 約21.1万人

トップの東京都千代田区(860.2件)は、中央値の実に9倍以上。でも、これは「千代田区が日本一買い物しやすい」という意味ではありません。千代田区は住む人が6.7万人と少ない一方、日本橋や神田に問屋街、丸の内にオフィス街を抱え、昼間には人口の何倍もの人が働きに来ます。事業所の多くは、そうした企業向け・卸売の店。中央区(日本橋)や台東区(浅草橋・上野)が上位に来るのも同じ理由で、問屋街=卸売の集積が数字を押し上げています。住民の日常の買い物とは、別の世界です。

卸売が混じり、小さな村も跳ねる

この密度が「買い物のしやすさ」とずれる理由は、大きく2つあります。

ひとつは、卸売業が混じっていること。この数字は卸売業と小売業を合わせた事業所数で、卸売(問屋や企業間の取引)は、私たちが日用品を買う場所ではありません。問屋街を抱える都心が跳ね上がるのは、このためです。

もうひとつは、人口の少ない自治体では、わずかな店で密度が跳ねること。上位に並ぶ奈良県天川村(人口約1,200人)や高野町(約3,000人)は、観光地の土産物店などがあるだけでも、人口で割ると大きな数字になります。数十軒の店が、そのまま「1万人あたり数百件」に化けるわけです。

つまりこの指標は、昼間人口の多い都心と、分母の小さい小規模自治体で極端に大きく出る。人口1万人あたりに直しても、そこに住む人の買い物のしやすさを素直には表さないのです。

逆に、住宅都市は低く出る

反対に、密度が低いのはどんな街か。下位には、埼玉県和光市(34.2件)や東京都日野市(33.4件)、大阪府島本町(31.7件)といった、大都市近郊の住宅都市(ベッドタウン)が並びます

でも、これらの街が「買い物に不便」とは限りません。住民の多くは、電車で数駅の都心やターミナルで買い物をします。また、大型スーパーが1つあれば日常はほぼ足りるので、事業所の"数"が少なくても暮らしは回る。事業所の密度は、店の数を数えているだけで、1軒あたりの大きさや品揃えは映しません。数が少ない=不便、とは読めないのです。

この数字が語らないもの

ここがいつもいちばん大事なところです。商業事業所の密度は街を知る手がかりですが、次のこととは別物です。

  • 卸売が含まれます。私たちが買い物する小売だけでなく、問屋などの卸売も数に入っています。問屋街の多い都心が高く出ます。
  • 昼間人口を補正できません。人口1万人あたりに直しても、常住人口が少なく昼間に人が集まる都心は跳ね上がります。住む人の便利さとは別です。
  • 小さな自治体は跳ねます。分母(人口)が小さいと、少数の店で密度が大きく出ます。観光地の土産物店なども含まれます。
  • 店の規模・品揃えは映しません。大型店1軒と小さな店10軒では、数え方は違っても暮らしやすさは逆のこともあります。
  • 2021年の断面です。ここに載せたのはこの時点の値で、店の開閉で変わります。

machiscopeで見る

同じデータを、次の形でそのまま確認できます。

まとめ

  • 商業事業所の密度は、全国の市区町村の中央値で91.4件(人口1万人あたり)。トップは東京都千代田区(860.2件)だが、その正体は住む人向けの店ではなく問屋街とオフィス街
  • この数字には卸売が混じり、昼間人口の多い都心や、分母の小さい小規模自治体で極端に跳ねる。「店が多い=買い物しやすい」ではない。
  • 逆に住宅都市は低く出るが、住民は近くの都心で買い、大型店1つで足りることも多い。数の少なさ=不便ではない。
  • 事業所の"数"は店の規模や品揃えを映さない。一つの目安として、中身を踏まえて読む。

出典:総務省の商業事業所数(社会・人口統計体系「統計でみる市区町村のすがた」・卸売業+小売業・2021年)を、総人口で割って人口1万人あたりに換算(machiscope)。卸売業を含み、昼間人口や店舗規模は反映しません。指標の粒度・ライセンスはデータ出典・方法論に記載しています。数値は参考情報であり、正確性・完全性を保証するものではありません。